『暗夜行路』 志賀直哉

hygrometry2006-01-18



時間をかけてゆっくり読んでみようと思う。
共感を求めるのではなく、
むしろ冷ややかな眼を持ち続けて付き合っていきたい。


序詞(主人公の追憶)〜全編4まで


しかし言っては見たものの、ここまで読んだ今、現在残るものは
主人公の心の揺れ動きに対する私自身の呼応というものしかない。
とてもじゃないが客観的に分析したり、
物語の展開を俯瞰しようという気にはまるでならない。
そういう時間があればもっと自分自身の過去を省みて、
主人公の内面との相違がどういうところにあるのかというほうを考えていたい。
やはりそういう向き合い方しかないのだろうか、と思い
読み始めにしてがっくりと打ちひしがれる感じである。


舞台となる時代はかなり昔である。
読んだところ正確には私には計りかねるが、
筆者が生きた時代と照らし合わせると、
明治の終わり〜大正〜昭和直後くらいなのだろうか。
正直この辺の時代というくらいという想像しか私の頭の中の設定にはない。


ひとつ重要なテーマだと思われることは、
十分な愛というものを感じ取ることができないまま生きる人間についてだ。
物語は幼少の頃、両親がいながらも兄弟の中でひとりだけ祖父のところに
預けられた際についての主人公の追憶から始まる。


預けられた理由について、特別そうしなければならなかった
事情があったようには書かれていない。
そうしたことからか、主人公は一見してわかるような屈折した性格をしているわけではない。
複雑な意識を抱えながらもなかなか普通に成長しているように見える。


しかし家族をはじめ人とのやり取りのなかで節々に現れるのは
やはり彼の育った環境を無視出来ないものとなっている。
慎重で、推測しすぎとも思える言動、そこには相手から'拒絶'
されてしまうことに対する意識が見え隠れする。
特に女性との距離の取り方における母親の存在がもたらす影響については
時代を超えたものを感じた。


一文が短く、静かで無駄がない文章が連なる中で、
少しずつ場面や主人公の言動が移り変わる。
一見それは淡々と進んでいくように思えるがそうではない。
静かに脈を打つ展開のなかにおこる、
なにかの決定的な変化の瞬間の描写がそこには見られる。
その瞬間に味わう、えもいわれぬ感覚は恐ろしささえ感じてしまう。