浅い眠り


真夜中に目が覚める。
一度眠りにつくとなかなか起きることはない質なので、珍しいことだ。
だが、こういうときはいつもあまり気分は優れない。
大概、次の日やらなきゃならないことで頭を悩ませていたり、
夜更かしがたたって生活リズムが崩れているときに起こるからである。
基本的にあまりよくない精神状態の時のときに起こる。


けれども一年に一度くらい、ほんとうにわけもなく真夜中に目が覚めることがある。
わけもなく、すうっと現実の意識が現れる。
真夜中なので当然部屋は何も見えないほど暗いから、
ほんとうに自分の意識だけが飛び出したような感じである。
光のない完全な暗闇の中、なにかの恐怖に怯えないで過ごせることが単純に心地よい。
永久にこの実体のない、精神だけの世界にいたい、と思うこともある。
ここには生の実感はないが、そのかわり死も訪れることがない。


もう会うこともなくなった人のことを考えていた。
自然と縁が切れてしまったひとのことだ。
単なる知り合いという間柄にすぎなかったのだが、
実はその人のことをどこか特別で尊い存在であると感じていた。
性的に惹かれたとかそういうことではなくて、
その人はどこか自分に似ていて他人とは思えなかったからである。


長い時間一緒になにかをしていても、気を遣うこともなく、
お互い自然な状態でいられた。
会話のテンポや行動の特徴も似通っていた。
波長が合うというのはこういうことか、と思った。
とにかく一緒にいることがとても心地よかった。
そこでは自分が自分でいなければならないということがなかった。


なぜだか結婚という言葉が頭によぎることもあった。
まるで現実味のないことであるのにも関わらずである。
大体にして彼女とは仕事でしか会わない先輩と後輩の関係だったし、
それが訪れるのも二、三ヶ月にいっぺんくらいのものである。
自分では特別な存在と思っていても端から見れば単なる知り合いという程度だ。
会話も実際はおもうほどしていないし、よく考えてみれば深い話もしていない。
何より彼女にとって自分はどういう存在と映っているのかが全くわからなかった。


相手にとって自分がどう映っているのかということを考えることは、
私には非常に勇気がいることである。
本当に逃げ出したくなるほどで、そういうことを考えたくないから
あまり周りに友達をつくる方ではない。


結局、その人には何も行動を起こすこともなく終わった。
何度かメールをしたりもしたが、
とくに連絡もしないまま、自然と縁が切れた状態となった。


相手のことはいくら考えたってわからないけれど、今にして思えば
もしかしたらお互いに同じことを思っていたのかもしれないと思うことがある。
お互い似たような性格をしていたし。
異性では性格が似ているとあまり合わないのかもしれない。


こんな感じのことをぐるぐると永遠にかんがえていると、
いつもいつのまにか夜が明けている。
決まって口ずさむセリフは、『あーあっ、ちゃんと寝とけばよかった。』