『のんびり』 クラムボン

残暑

残暑


上記maxiシングルのカップリング曲として収められている。
この時期は、このバンドの変革期とも言える時期だったように思われる。
1st、2ndアルバムまではレコーディングも一人一人別取りで、
後から音を淡々と組み立てていく作業を行っていたという話を当時の雑誌で読んだ。
バンドとしては、セカンドアルバムまででそういう方向での音づくりでは
行き詰まって来ているということも同様に語っていた。


そこで彼らは自身を一度他人の手にゆだねてみようと決心した。
その後3rdアルバムを出すまでプロデューサーに亀田誠治を迎えるのである。
そして、状況が打破されるときはやって来た。
亀田のプロデュース体制の中で、
彼らは三人でのセッションを重ねた音づくりの重要性に改めて気付いた。
その劇的な変化が彼らにもたらしたエネルギーが一気に放出された曲が『サラウンド』である。


当時の雑誌を読んだ限りの話ではあるが、
この時期の彼らの流れはこのようなものだと覚えている。


今振り返ってみると、この時期の曲はその積極的意識が前に出過ぎていて
ちょっとらしくないなという印象がある。
いくつもの音が重ねられすぎてうるさい感じも受ける。
彼らの魅力であった音の隙間をもった軽やかなポップ感がなくなって、
それまでの音を好んでいた者としては逆に聴きづらくなってしまった。
またバンドの音の意識と平行して、この頃から段々と郁子の声もより変化して来ている。
声がそれまでより太くふくよかになり情感がこもるようになって、
こちらに訴えかけるような唄い方をするようになった。
同時に歌詞の内容もよりストレートで強いものとして書かれるようになっている。


そこで今回取り上げた「のんびり」である。
この曲はどこかこの時期の彼らの曲の中でもいい意味での懐かしさを有している。
音はストリングやホーンと入れて密度の高いものとなっているが、
そのテンションはそれまでのクラムボンらしい、ゆったりとした、
まさにのんびりして気の抜けた感じで、リラックスして聴くことが出来る。
当時鉄道会社かなにかのCMで少しの間用いられていたのだが、
ちょうど夏休みの列車の旅ということのPRにはぴったりの曲であった。


この曲を作り上げたときの彼らは、まさに一息つくという感じであったのではないだろうか。
バンドとして新たな方向へものすごいエネルギーで突き進んで行く途中、
ふと今までの自分たちを振り返るように、ほんのちょっと小休止した際に生まれた曲。
そういうリラックスした感じを曲を聴いていてすごく感じる。


そんなわけで、この曲はこの時期の彼らの曲の中でもよく聴く曲だ。
アルバムには収録されていないのがもったいないなぁとは思うが、
そういった意味を考えるとやはりあのアルバムからはちょっとはみ出る曲だったのかとも思う。