夜の灯


夜の繁華街を歩いていて、「ああ、なんか落ちつくな。」と、ふと気づくことがある。
街を照らす人口の灯、店を彩る電飾、自動車のバックライトとそれに呼応して変化する信号、
携帯電話に向かう者の顔をぼんやりと照らす光。
耳を支配する排気音と無数の話し声、足音。
これらのもののなかで誰一人として知らない人間達に囲まれ、
いつもよりゆったりとした歩調で歩いていると、
自分は世の中の傍観者になったような気分になる。
目に映る光景のなかに、完全に同化しているにもかかわらず、
意識はどこかはなれたところにいってしまっているかのようだ。


自意識は街を満たす流れの中で完全に解けてしまい、
目に入ってくる光景すべてがニュートラルな情報として認識される。
なにをみても興奮したり、感動も覚えないが、
目の前の映像は終わりなく変化し続け、依存性のあるけだるい心地よさを与えてくれる。