台風が来る


もうすぐ台風が来る。とびきり大きいのが。。
不謹慎な話だがこどもの頃台風が来てワクワクしている自分がいた。
そしてまぎれもなくその規模が大きさに興奮の度合いは比例していた。


92年くらいだろうか、青森の方で林檎が壊滅的な打撃を受け、稲も同様に被害を受け
タイ米やカリフォルニア米を輸入して食べたときがあったかと思う。
そのときの大雨で家の前の道路が水位50cmくらいになったことがある。
緩い傾斜値に立っている家の目の前を穏やかな川のように雨水は流れていた。
その水は町中を覆い尽くしていたから本当は川なんじゃなくて海に沈んだような状況だったが。。


大変なことが起きているということは子供ながら理解しているつもりだったけれど、
僕はどこかでその状況を楽しんでいた。
家からちょっと言ったところに、深く掘り込まれた窪地のような沢があるのだけど、
きっとあそこはいま水でいっぱいになっているはずだ。
いちばん底は30mくらいの深さだからあそこは今小さな海になっているにちがいない。
そういうことが頭に浮かぶと、興奮を抑えられず家中で走り回っていた。


この中でよけいなのはこの暗い空なんだよなあ。
明るい晴れた状態でいまみたいに水があふれていればいいのにと感じた。
海パンにゴーグル姿で町中をおよいで学校まで通学したら面白いだろうなぁ。
大人はきっとボートで一寸法師みたいに仕事にいくに違いない。
きっとみんなともいつもより仲良くなれるだろう。


どうせなら学校の階段もすべて泳いで上がれたらいいのに。
水の中に浮かぶように軽い体で授業を受けれたら気持ちいいだろうなぁ。
大きな水槽のようになった教室に差し注ぐ太陽の光がキラキラしてきれいだ。


帰りは下りだから水に身を任せていれば家まで到着できるぞ。
ラッコみたいな姿勢で空を見上げながら長い長いすべりだいにのった気分で家まで直行だ。
ああラクチンでいいなぁ。。。


台風の日、朝連絡網がまわってきて、学校も休校になった日の昼間、
窓から外の様子をみながらこんなことを考えていたような気がする。


台風が去った次の日、道路の水は当然すっかり引いてしまった。
しかし、近くの窪地にはまだ半分くらい水がたまっていて池のようになっているに違いない。
そう考えた僕は、登校途中ワクワクしてそこに必ずいってみようとおもっていた。


けれどもどう思い返してみても、その窪地が実際どうなっていたかをなぜかおもいだせない。。
タイ米のチャーハンのぱさぱさ加減はおもいだせるんだけどなぁ。